iCTL治療

iCTL治療とは、細胞性免疫を最大限活用した治療方法の名称で、主に「樹状細胞ワクチン治療」と「体質改善・微小環境改善治療」の融合治療である。

A. iCTL治療により、患者の長期生存が可能な理由

1. 細胞免疫学に基づく、長期生存に至る理論的根拠

理論的には、がん/ウィルス/細菌への細胞性免疫の応答は、以下の機序で行われる。ただし、がん細胞は、成長過程で免疫抑制機構(自己免疫疾患にならないための仕組み)を取り入れているので、治療においては、がんの微小環境改善が特に必要不可欠である。

樹状細胞 ⇒ CTL(細胞傷害性Tリンパ球) ⇒ メモリT細胞

がんを特異的に攻撃するCTL(CD8陽性細胞傷害性T細胞)が最も重要である理由は、腫瘍切除後の組織病理の分析結果において一般的に大多数のがん患者では、T細胞やマクロファージは腫瘍周囲や所属リンパ節に留まっており、がん細胞組織内まで到達できていないが、がん組織内にCTLおよびCD4陽性Th1細胞の浸潤が多い患者は、予後が極めて良い

このCTL(=がん抗原認識受容体発現CD8陽性T細胞)が遊走して、がんを発見・攻撃して、がん退縮後、CTLの一部がメモリT細胞として、がんの特徴を記憶するため、「がん寛解者は、がんの再発が起こりにくい体質」になっていた。

ここでのインプリケーションとしては、以下の点である。

  • CTL⇒メモリT細胞」を活性化しない限り、無再発での長期生存に結びつくことはない。
  • このCTLは、臨床の結果として、T細胞を培養して、単純に体内に戻しただけでは、in vivo(患者体内)では機能しない。

2. 臨床試験の結果に基づき、多くの臨床で検証を繰り返してきた治療方法

我々の研究チームは、当時連携医療機関で行われた「免疫細胞治療の臨床試験*」の結果とそのフォワードテストとして臨床を実施した結果も踏まえて、また、「体質改善・微小環境改善」を数多く臨床の有意な結果と和田洋巳医師が中心となり、京都大学で実施した「アルカリ化食の臨床試験※」も踏まえて、「患者がより長期生存につながる治療」を、改良を重ねながら追求してきた。

※この2つの臨床試験では、それぞれ、5年生存率においてコントロール群との比較にて介入群の有意性があることが認められた。

これらをベースに、臨床を通じた試行錯誤の結果、以下の3つの治療方法を駆使することで、がん患者を長期生存に導くことが検証された。

  1. 樹状細胞ワクチン治療:がんを攻撃するT細胞(CTL)に、抗原を提示する治療
  2. (樹状細胞を含む)細胞性免疫全体を最大限活用するように微小環境を改善
  3. 活性酸素除去も含む体質改善(ATP最適化

3. “CTL誘導”の阻害要因を解消する治療方法

“がん細胞”が成長過程で獲得した耐性には、大別すると
(1)Primary Resistance(初期の耐性)
(2)Adaptive Resistance(獲得した耐性)
の2種類がある。CTL誘導のためには、これらの2つの阻害要因を解除する必要がある。

  1. Primary Resistance(初期の耐性)は、
    ①抗原提示細胞の破綻
    ②MHC発現低下/欠失
    ③免疫抑制シグナルの発現(WNT、pTEN、PDL-1など)
    ④ネオ抗原の欠失
    ⑤IFN-γ受容体の欠失およびシグナル分子の異常
    などである。これらが起きると、樹状細胞を起点としたCTL(細胞傷害性Tリンパ球)誘導が困難になる。

⇒これらの問題は、独自に発見・確立した樹状細胞ワクチン治療により、樹状細胞を培養によりしっかりと成熟させて体内に戻すことで解決可能である。

  1. Adaptive Resistance(獲得した耐性)は、がん微小環境において、CTLなどのエフェクターT細胞ががん細胞に浸潤して、IFN-γを分泌すると、がん細胞はPD-L1などのチェックポイント分子を発現して、樹状細胞およびCTLなどの免疫細胞を抑制する。同時に、自己免疫疾患などを抑制する免疫抑制機構をがん細胞に取り込み、Tregなどを活性化することで、免疫細胞を抑制する。その他、MDSC、TAMなどを活性化して、免疫抑制を行う。

⇒これらの問題は、体質改善・微小環境改善治療を行うことで解決可能である。

B. 寛解に導く治療プロセス:免疫編集の視点

寛解に導く治療では、がん化のメカニズムとは逆のプロセスで進行する必要がある。すなわち、逃避フェーズ(逃避相)⇒平衡フェーズ(平衡相)⇒排除フェーズ(排除相)と進めていく。

① 逃避フェーズ:“免疫”<“がん”

がん細胞の増殖能が高い場合には、抗がん剤/放射線治療/近赤外線治療(光免疫)などにより、がん細胞の活動を抑制し、一部の傷害を誘導する。理想の治療としては、「副作用が限りなく少ない治療」で、かつ「がん細胞のみを的確に攻撃可能な治療」が望ましい。

候補としては、「抗がん剤は、血管内治療(カテーテルによる局所抗がん剤治療)」、「放射線治療は、TomotherapyやMRidianなどの局所治療」など。しかし、患者の状況によっては、点滴による少量の抗がん剤を行う場合もある。

また、免疫応答を抑制する微小環境を改善して、細胞性免疫が活性化しやすい微小環境を構築する。つまり、がん細胞を特異的に認識する細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T-lymphocytes: CTL)誘導のために、免疫に対するブレーキのうち、Tregによる抑制作用を弱める治療を行い、がん微小環境のアルカリ化を少しずつ開始する。

② 平衡フェーズ:“免疫”≒“がん”

一時的にがん細胞の活動を抑制できた後には細胞性免疫を活性化させるための治療を行う。樹状細胞治療の接種を行うと同時に、本格的に微小環境改善のための治療を行う。まず、免疫に対するブレーキの抑制作用を弱める治療を行う。つまり、Tregの働きを阻害・減弱させる、また、チェックポイント分子を阻害する。

また、血液・生化学検査で進捗管理を行いながら、がん微小環境のアルカリ化を本格的に行う。目標指標としては、「尿pH8.0以上」を実現するために、食生活改善、クエン酸、重曹などを用いる。また、がん細胞内の酸性化/がん微小環境のアルカリ化のために、以下の解糖系を阻害する治療方法も、適宜、用いる。

  • V型ATPアーゼ
  • 炭酸脱水酵素:CAⅨ(細胞外→細胞内)、CAⅡ(細胞内)
  • COX-2
  • ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(がん細胞内ミトコンドリア活性によりアポトーシス誘導)
  • 低酸素誘導因子(HIF-1)

さらには、抗酸化治療を行いながら、体質改善を徹底的に行う。体質改善は「食事療法、経口投与薬などを中心とした患者の努力」と「点滴も含む抗酸化治療を中心とした医療機関での治療」で構成されている。がん退縮後の炎症状態を、代謝改善も含む体質改善により早期に解消することを目的として実施。我々の研究チームでは、「体質改善ががん治療の予後を決定する」ことを多くの臨床で経験している。最も残念な症例は、「肝臓がんは消えたが、炎症により肝不全を起こし亡くなる」ことであり、患者の長期生存(5年生存)を常に第一優先に考えており、そのためには、この体質改善は重要である。

③ 排除フェーズ:“免疫”>“がん”

がん細胞の活動状況に注意を払い、微小環境のアルカリ化を継続しながら、抗酸化治療も含む体質改善療法を中心に行う。組織修復(炎症状態を緩和)には、代謝改善・ATP最大化(ミトコンドリア活性)と抗酸化治療が必要不可欠である。このフェーズでは、CTL細胞が遊走し、がん細胞が退縮することができれば、CTLの一部がメモリT細胞として、免疫記憶に残ることになる。

細胞性免疫を誘導するための生化学的プロセスを阻害しないように、どの治療をどのタイミングで行うべきか、ということに注意しながら、治療を行う。

C. 細胞性免疫を誘導するための生化学的プロセス

以下の生化学的プロセスを丁寧に経ることが、細胞性免疫を活性化させるためには必要不可欠である。がんの増殖にブレーキがかからない場合には、直ぐに最初に戻り、がん細胞の活動を抑制することに全力を注ぎ、1~2か月の抑制期間を創出して、生化学的プロセスに戻る。治療開始から、体質改善・微小環境改善を実施しているため、がん細胞の増殖は徐々に抑制できるようになることが多い。一般的には、下図の“Immune Cycle”のようなプロセスを踏むが、CTL誘導に関わるプロセスとしては、以下の4つが重要となる。

① がん細胞の活動を抑制し、がん抗原を放出させる

がん細胞を叩く治療により、がん細胞が損傷した時に、がん抗原が放出されるため、それを抗原提示細胞が提示することで、免疫細胞が活性化される。この原理を応用して、切除術後のがん細胞を用いた免疫細胞を活性化させるための培養技術もあるが、がん抗原が明確な場合には、体外で人為的に抗原提示させる技術を用いることが多い。

Source:  Biorender.com “immune cycle”
② 樹状細胞ワクチン治療により、抗原を強く効果的に提示する。

がん抗原の一部を抗原提示細胞により多く取り込ませるために、樹状細胞ワクチン加工を行う。そもそも、複雑かつ巧妙に作り上げられた免疫システムをすり抜けて、画像診断で確認できるほど成長したがん細胞のため、がんに対する免疫システムが機能不全の可能性が高い。ゆえに、抗原提示の仕組みに刺激を与えることが必要不可欠となるため、樹状細胞ワクチン治療を行い、外から人為的に投与(接種)する。

③ 樹状細胞がCTL細胞を活性化。CTL細胞が遊走、がんを退縮。

独自技術で加工された樹状細胞により、1型ヘルパーT細胞とCTLが活性化されて、がん細胞が発現する分子(がん抗原)を標的として、遊走することで、がん細胞が傷害され、がんが退縮する確率が飛躍的に高まる。

⑤ がん消滅後、CTLの一部がメモリとして残り、再発に備える。

我々の樹状細胞ワクチンは、独自技術によりCTLを中心とした細胞性免疫が強力に誘導され、がんが退縮・消滅後に、CTLの一部がメモリT細胞として、免疫記憶に残るため、再発防止・延命効果を強力に発揮できる。

このプロセスを患者一人ひとりの体内で導くために、血液・生化学検査の指標を用いて進捗状況を把握することが、完全寛解に向けた治療にとって、重要となる。この進捗状況をコントロールすることは我々のノウハウでもある。

D. iCTL治療(細胞性免疫活性化治療)の内容

  1. 樹状細胞ワクチン治療:がんを攻撃するT細胞(CTL)に、抗原を提示する治療
  2. (樹状細胞を含む)細胞性免疫全体を最大限活用するような微小環境改善
  3. 活性酸素除去も含む体質改善
  1. 細胞性免疫誘導型樹状細胞ワクチン治療とは、
    • 樹状細胞(Dendritic Cell=DC)は、免疫を担当する細胞の中で「抗原提示」と呼ばれ、体内でがん細胞を直接攻撃するTリンパ球に、がんの目印(がん抗原)を教え、攻撃の指示を与える司令塔の役割を果たす重要な免疫細胞である。
    • 樹状細胞にがん細胞のタンパク質が取り込まれるとそれが細胞内で分解され、患者のがんの情報(抗原)として樹状細胞に提示される。がん抗原が明確な場合には、体外で人為的に抗原提示させる技術を用いて、それを患者の体内に戻すことで「目印」を頼りにがん細胞だけを集中的に攻撃するTリンパ球(細胞傷害性Tリンパ球:CTL)を効率よく誘導することが可能。
    • こうした樹状細胞を用いた治療法を樹状細胞ワクチン治療という。
  2. (樹状細胞を含む)細胞性免疫全体を最大限活用するような微小環境改善療法
    • がんが画像診断で確認できるレベルの病巣が存在するということは、「免疫細胞はがん増殖を抑制できていない状態」であり、「細胞性免疫が機能していない状態」である。
    • 細胞性免疫を活性化するためには、免疫に対するブレーキの抑制作用を弱める治療が必要となる。すなわち、Tregの働きを阻害・減弱させる。また、チェックポイント分子を阻害することが必要となる。また、細胞性免疫を活性化するためには、がん微小環境のアルカリ化は必要条件となる。
    • これらの微小環境改善には、内服薬、点滴及び食事療法を活用し、治療効果判定を、血液・生化学検査にて行う。
  3. 活性酸素除去も含む体質改善療法
    • 組織修復(炎症状態を緩和)には、代謝改善・ATP最大化(ミトコンドリア活性)抗酸化治療が重要になってくる。
    • 代謝改善・ATP最大化は、食事療法や投薬などを用いて行う。また、抗酸化治療は、食事療法やビタミンC大量投与や水素吸入などを中心に行う。これらの治療効果判定は、血液・生化学検査にて行う。

これらの3つの治療を組み合わせて、「CTL(細胞傷害性Tリンパ球)⇒メモリT細胞」へ導く治療を、「iCTL治療」という。

E. 我々の樹状細胞ワクチン技術の差別化要素

我々の研究チームが独自に発見・確立した樹状細胞(DC)ワクチン技術の差別化要素は、

  1. DCにクロスプレゼンテーションを起こす
  2. ヘルパーT細胞にIFN-γを産生させる(Th1細胞活性化)
  3. メモリT細胞誘導による再発予防

の3つである。以下にて解説をする。

  1. クロスプレゼンテーションのプロセスに関しては、樹状細胞は、抗原を捕捉・取り込み、ナイーブCD8陽性T細胞へ抗原を提示する能力をもっており、特定の条件下この経路で取り込まれた抗原は、ペプチドがMHCクラスⅠ経路に入る小胞体から細胞質へ輸送される。同時に樹状細胞は小胞で生成されたMHCクラスⅡ関連ペプチドを、CD4陽性T細胞に提示することができ、このことは、CD8陽性T細胞CTL)の完全なる応答性を誘導する(CTL誘導)ために必要とされる。逆に言えば、CTL誘導(CD8陽性T細胞の活性化)には、樹状細胞による抗原提示が最も有効である。クロスプレゼンテーションは、樹状細胞が、樹状細胞以外の細胞で産生された抗原由来ペプチドを、CD8陽性T細胞に提示できるようにし、効果的なCTL誘導を実現するシステムである。
  2. 樹状細胞上のクラスI・抗原ペプチド複合体に結合したCD8陽性T細胞は、活性化してINF-γのようなサイトカインを産生するようになる。CD40シグナルとINF-γも含むサイトカインは、樹状細胞を活性化し、結果的に抗原処理・提示能の増強、共刺激因子の発現増強、そして、CD8陽性T細胞の活性化(CTL誘導)に必要なINF-γも含むサイトカイン産生を増強する。このように、「抗原を提示する樹状細胞」と「抗原を認識するCD8陽性T細胞」間の双方向結合は、ポジティブ・フィードバックをもたらし、CTL誘導を最大化するために重要な役割を担う。また、INF-γは、それ自身がTh1細胞を誘導する強力なサイトカインであり、INF-γとIL-12などは、樹状細胞NK細胞を活性化させる抗原を認識したときに、Th1細胞への分化を誘導する。NK細胞は、同時にINF-γを産生し、INF-γは、樹状細胞やマクロファージに作用して、IL-12の分泌を促進させる働きもする。CD4陽性T細胞から分化したTh1細胞INF-γを産生することで、さらにより多くのTh1細胞への分化を促進させ、その結果、Th1免疫応答およびCTL誘導が強化される。一方で、独自に発見した方法で樹状細胞を活性化させた場合、ナイーブCD4陽性T細胞が、Th2細胞やTh17細胞(OK432: ピシバニールでは誘導される)に分化することを阻害し、Th1免疫応答以外は誘導されにくい状況を作り出す(Th17が誘導されると間質性肺炎等の副作用が懸念される。)。さらに、Th1免疫応答により活性化したT細胞は、樹状細胞上でCD40からCTLにシグナルからを与えたり、IL-12の産生を促進したりすることで、樹状細胞やマクロファージからサイトカイン産生を増強させ、結果としてCTLを強力に誘導する
  3. がん消失後、CTLの一部がメモリT細胞となる機構を有する。メモリの機能を説明すると、一度、抗原提示を受けたT細胞は、再び同じ抗原を発見すると、その抗原に適合したCTL誘導(応答能力)を迅速に増強させることで応答。この免疫学的記憶は、再度、抗原を発見することにより、長期生存の抗原特異的なメモリT細胞がつくられることによって起きる。そのため、再発予防効果が期待される。また、DCベースの培養を元に開発したNKT細胞活性化治療はNK細胞を活性化させるだけでなく、体内に存在しているメモリT細胞を強力に刺激・増殖させることも可能。

通常の免疫機能に加えて、樹状細胞ワクチン技術におけるこれらの3つの差別化要素を用いつつ、がん微小環境を改善することで、がん患者の体内において、すべての免疫細胞が、お互いにポジティブ・フィードバックをもたらし、CTLを中心にした細胞性免疫を活性化し、がん退縮・消滅を目的として、組織化されたチームのようにベクトルを合わせるようになり、また、がん退縮・消滅後には、再発予防のために、メモリT細胞を活性化することも可能となる。

F. がん細胞の免疫応答からの逃避とその対応(Primary Resistanceの視点)

がん細胞の中で、細胞性免疫を不活性化したがん細胞が、長時間をかけて増殖を繰り返してきた。がん細胞は、自己免疫疾患の回避やがんに対する免疫応答を調整している抑制性分子を用いて、免疫応答から逃避をする。免疫逃避としては、大別すると、以下の三つがある。

  1. 免疫抑制性たんぱく質を産生・免疫抑制性表面たんぱく質が発現
    • がん細胞へのT細胞の応答では、T細胞の抑制性経路としては、チェックポイント分子、特に、CTLA-4とPD-1が関与して、T細胞が抑制されている。慢性的ながん細胞へのT細胞の応答では、疲弊(機能不全)形質をもち、エフェクター機能の低下やチェックポイント分子、その他の抑制性分子の発現増加という特徴を持つ。
    • がん細胞が分泌する分子(TGF-βなど)は、抗腫瘍免疫応答を抑制する。
    • 制御性T細胞はがん細胞に対するT細胞応答を抑制する。
    • 骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は、自然免疫系とT細胞による抗腫瘍免疫応答を抑制する。MDSCは、単球、好中球の前駆細胞も含む多様な不均一な細胞集団である。MDSCは、IL-10、TGF-βなどの免疫抑制性サイトカインやプロスタグランジンなどを分泌、制御性T細胞の分化を促進など、様々な異なる機序で自然免疫と獲得免疫を抑制する。MDSCの腫瘍組織浸潤は、抗腫瘍免疫の低下と相関する。
  2. がん抗原発現の消失
    • 最初は免疫応答を起こせるがんでも、時間と共に抗原を発現しないがん細胞が選択的に増殖するために、全体としてがんの免疫原性が低下する。
    • がん細胞への免疫の圧力は、免疫原性が低下した変異がん細胞の選択的増殖をきたす。がん細胞の高分裂能と遺伝子不安定性を考えると、がん抗原をコードする遺伝子の変異や欠失はよくあること。
    • 抗原ががん細胞自体の増殖やがん形質の維持に必要でない場合には、抗原欠失したがん細胞は、免疫応答下では、がん細胞の増殖に有利に働く。
  3. MHC分子や抗原処理に必要な分子が変異
    • MHCクラスⅠ発現も、がん細胞で低下し、CTLで認識されなくなる。
    • 様々ながんで、MHCクラスⅠ分子の合成低下や、β2ミクログロブリンなどのMHCクラスⅠの細胞表面発現に必要なたんぱく質の発現低下、抗原トランスポーターやプロテアソームのサブユニットなどの抗原処理に関わる分子の低下。
    • MHCクラスⅠの消失は、免疫暴走の結果であり、がん細胞をCTL免疫応答から逃避させる。
    • MHCクラスⅠを消失したがん細胞は、NK細胞に認識されるが、NK細胞活性化受容体に対するリガンドの発現を低下させる突然変異が加わると、NK細胞からの攻撃も逃避するサブクローンの増殖が促進する。

しかし、これらの3つの免疫応答からの回避に対しても、我々の治療により解決可能で、CTLを中心にした細胞性免疫において適切な免疫応答を導くことが可能となる。

G. がん微小環境の課題とその対応(Adaptive Resistanceの視点)

がん細胞増殖・促進に寄与するがん微小環境では、通常の治療では、残念な結果に終わることになる。主な要因は、以下の7点である。

  • 代替活性化(M2様)マクロファージは、血管新生を促進する成長因子・VEGFや細胞外組織を修飾する酵素を産生する細胞である。
  • マスト細胞、好中球、マクロファージなどの自然免疫系の細胞は、がん細胞の細胞周期亢進や生存を促進する可溶性因子を分泌する。
  • 骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は、抗腫瘍免疫を抑制することにより、腫瘍増殖に寄与しているとされる。
  • 獲得免疫系も複数の機序で、がんの形成を促進する。Th2細胞や制御性T細胞へ、CD4陽性T細胞を分化させる。
  • チェックポイント分子により、樹状細胞の状態を変化させ、CTL誘導させないようにする。
  • B細胞も初期のがんにおいて、がん細胞の増殖を直接的に促進する因子を分泌。
  • 慢性的に自己免疫系細胞(Tregなどの免疫抑制機能)を活性化することで、がんの進展を促進。

しかし、がん細胞増殖・促進に寄与するがん微小環境の状態に対して、我々は、微小環境改善を実施することにより、CTLを中心にした細胞性免疫誘導に適したがん微小環境へ改善することが可能であること臨床を通じてわかってきた

H. がん細胞に対する免疫応答

我々研究チームは、以下の培養技術を保有しており、実際に臨床に用いてきた。

  • 樹状細胞
  • NKT細胞
  • αβT細胞
  • γδT細胞
  • NK細胞
  • (切除術後のがん組織を用いた)樹状細胞+CTL

それぞれの培養による臨床を通じて、どの免疫細胞治療の機序が、再発予防や特異的エフェクターを増強する治療に有効か、というデータ収集を続けてきた。その結果、CTL(αβT細胞の一部)誘導ががん治療において最も重要であり、そのCTL誘導のためには、最も重要視するべき治療は樹状細胞ワクチン療法であることがわかった。また、CTL誘導の手段として、がん微小環境をCTLが誘導されやすいように改善することが効果的であることがわかった。

細胞性免疫を最大限活用する意味は、免疫は全身性であるので、一度、がん細胞に対して効果的な獲得免疫応答が起こせれば、それは長期に渡り体内のがん細胞に対して、有効に働くことになる。また、長期に続く記憶(メモリT細胞)が再発予防につながり、これを活用できることは、患者の長期生存を意味する。

ここでは、T細胞や免疫エフェクター機序による免疫応答を紹介する。体内のすべての免疫を全体最適になるように継続的に安定的に活性化することが、がん治療のカギとなる。

T細胞

がん細胞に対する免疫応答の主要な機序は、CD8陽性CTLによるがん細胞の傷害である。CTLは、腫瘍抗原由来ペプチドをMHCクラスⅠ分子で提示するがん細胞を認識して、傷害する。主要な固形がんにおいてCTLが腫瘍組織に十分に存在すると予後が良い。逆に、過去の臨床通りに治療が進まない場合には、がん細胞によるCTLの抑制機序が起きている可能性があり、その場合の対応方法も我々は既に準備している。

  • CD8陽性CTLの応答には、樹状細胞による抗原提示が必要である。がん細胞や抗原は、抗原提示細胞、特に樹状細胞に取り込まれて処理される。抗原由来のペプチドは、CTLの認識に必要なMHCクラスⅠに結合して、樹状細胞の表面に提示される(クロスプレゼンテーション)。そして、リンパ節に移動して、ナイーブT細胞と接触する。さらに、共刺激因子を発現する抗原提示細胞ヘルパーT細胞は、ナイーブCD8陽性T細胞が特異的CTLの分化に必要なシグナルを提供する。
  • CD4陽性1型ヘルパーT(Th1)細胞は、複数の機序で抗腫瘍免疫応答の誘導を助ける。切除後がん組織内のTh1細胞は、CTL同様に患者の良好な予後と相関が高いTh1細胞の抗腫瘍効果は、CTL誘導の促進作用IFN-γ分泌を介した抗原提示細胞の活性化など。 IFN-γは、がん細胞のMHCクラスⅠ発現を高めて、CTLによるがん細胞傷害作用を増強する。

NK細胞

NK細胞は様々ながん細胞を傷害できるが、特異的傷害ではないため、がんへの攻撃能としては限定的である。例えば、がん細胞のMHCクラスⅠ発現の低下/消失や活性化NK細胞受容体に結合するリガンドの発現が増加している場合に、NK細胞はがん細胞を傷害できる。また、CTLなどの攻撃により衰弱したがん細胞に対しても、NK細胞は傷害する。

マクロファージ

マクロファージは、その活性化状態により、がん細胞の増殖や浸潤を促進したり、抑制したりする。がん組織のマクロファージは、特異的CTLやTh1細胞により産生・分泌されたIFN-γによって活性化される。これは、Th1細胞ががん組織の中に多いと予後が良い理由の一つになりうる。

I. 細胞性免疫を最大限活用することの目的と期待効果

「がん細胞は、免疫系に認識される抗原を発現する」という前提で治療を行なっているが、ほとんどのがんでは、免疫を抑制する、もしくは、免疫原性が弱いため、免疫応答は必ずしもがんの発症を防ぐことはできず、既に発症したがん細胞に対しては、適切な治療を行わない限り、全患者に対して、治療効果を求めることは困難である。

そこで、「二十数年の間の研究開発によって練り上げられた培養技術」を最大限活かすことができるように、体質改善・微小環境改善を、「投薬を含む治療」および「(患者の努力による)食事を中心とした生活習慣改善」により、治療方法の改良を試みてきた。

我々が提供する「体質改善・微小環境改善」+「免疫細胞治療」は、患者の長期生存を目的として、「CTL誘導」と「メモリT細胞の活性化」を患者体内で導くことを第一優先に考えた治療方法であり、この総合的相互補完的治療の総称を「iCTL治療:細胞性免疫誘導を最大限活用した総合的がん治療」と呼ぶ所以である。