がん治療の考え方

がん治療には様々な治療方法が世界中で実施されてきている。まず、がんの三大療法(標準治療)に関して、「がんを直接攻撃する」ことに主軸が置かれてきたが、現在までに満足できる治療成績は得られていない。がん治療は、分子生物学的研究により遺伝子レベルの診断に基づく治療に向かっているが、最先端治療をもってしても、「がんを直接攻撃する」治療である限り、がん治療効果としては、現在までに抜本的な改良に結びついてない。

私たちは、臨床研究の中で、ステージⅣからの完全寛解で5年生存を実現した方々の臨床データに注目して、細胞免疫学の理論に従って読み解くと、以下の2つのことがわかってきた。

  • 細胞性免疫を効果的に活性化して、再発予防につなげている。
  • 2つの免疫耐性により細胞性免疫を無力化することで、がん細胞は体内で大きくなっているため、これらの2つの免疫耐性を解除することが、がん治療におけるカギとなる。

治療全体像からみたがん治療の考え方

多くのがん治療が、がん細胞を攻撃することのみに焦点が当てられており、がん細胞を攻撃する治療の後の治療や再発の有無は、「自然治癒力」に依存している。ほとんどの患者の体内では、がん細胞は2つの免疫耐性を利用しており、がんを退縮させることは困難である。

がん治療における自然治癒力とは、自己防衛機能自己修復機能、のことである。自己修復機能とは、がん退縮およびがん退縮後の炎症状態の解消を、ATPを用いて修復する機能のことである。

がん治療における自己防衛機能とは、以下の2つを駆使して、再発予防につなげることである。①がん抗原特異的なCTLを誘導することであり、また、②CTLの前駆細胞の一部は、長期記憶可能でがん抗原特異的なメモリT細胞に分化し、再び同じがん抗原に暴露された時に速やかに反応するために保存される。すなわち、がん抗原特異的なメモリを保存することによって、次にがん抗原に暴露した際に、免疫系は応答能力を増強させ、強い反応を示すことになり、がん細胞が画像診断にて認識されることなく、退縮することになる。つまり、がん抗原特異的なメモリT細胞再発予防につながる。

このがん抗原特異的メモリT細胞による再発予防が、がん治療における最大の目的であり、がん罹患者の長期生存のためには、必要不可欠である。

がん治療の全体像を見れば、がんを抑制しているだけでは、完全寛解になる可能性は低く、一時的にがんが退縮したとしても、数か月後に再発する可能性が高い。

逆に、iCTL治療では、がん抑制に関しては、他の手段を活用することになるが、がん抑制後に、「樹状細胞接種⇒CTL誘導⇒メモリT細胞活性化」を行う治療であり、そのプロセスを経る確率をより高めるために、体質改善・微小環境改善を行う総合的でかつ相互補完的ながん治療である。

がん細胞が体内で大きくなった原因:2つの免疫耐性により細胞性免疫を無力化

最初に体内に出現した“不完全な細胞(がん細胞)”は、がん抑制遺伝子(※)などの細胞の自己修復能により修復されるが、修復できない不完全な細胞は、細胞性免疫により排除される。これが、正常に機能している体内の細胞性免疫の仕組みである。

※がん抑制遺伝子治療をご参照下さい。

しかし、不完全細胞が、細胞性免疫によって排除されず、生存し続けることがある。つまり、元々、患者体内の中に備わっている樹状細胞に見つからないような免疫原性の低いがん細胞が免疫系からの攻撃を回避して、体内に残るようになる。この樹状細胞を無力化することが、がん細胞による初期の免疫耐性である。

ただ、この状態ではがん細胞の増殖は難しいが、がん細胞は、徐々に自己免疫疾患にならないような体内での仕組みである免疫抑制機構を取り込むことができるようになる。そうなると、免疫応答を抑制するがん微小環境を作り上げて、細胞性免疫からの攻撃を逃避することで、無限増殖能を得て、拡大することで臨床的に“がん”として認識される。このように、がん細胞が増殖しやすいように微小環境を変更したことは、がん細胞が獲得した免疫耐性の一つである。

このようなメカニズムにて、がん細胞は、10年から20年をかけて、この2つの免疫耐性を獲得した細胞であるため、この2つの耐性を解除する治療法が必要不可欠である。